一駅目 尺別駅

 同じ「別」の字が付く駅名であり兄弟のような感じを受けるが二つの駅は相当離れている。漸く尺別駅である。最早日は暮れかかっている。駅舎は昭和のものが残っているのであろう。割と立派である。どうせなら乗って来た列車が走り去っていくのを見届けてから駅舎へ向かおう。ところがなかなか発車しない。列車の交換を行うようだ。然し、当の交換予定列車がなかなか走って来ない。千歳線の運転見合わせの影響でダイヤが乱れているのだ」。だいぶ遠くまで来た積もりであるがレールは一本で繋がれ、そこを列車は一体となって動いている。 

 反対の特急列車がやれやれという顔でやって来た。大変なのはお互い様である。スーパーおおぞら号は脇目も触れず走り去って行った。彼にとって旅は始まったばかりである。残された普通列車は青信号を認めると一息ついた。そして銀色のどこまでも続く道へと歩みを進めた。見えなくなる迄見ていよう。すると列車は大きく曲がり正面の山に沿っていつまでもいつまでも見え続ける。辺りは一面雪原で遠くに海鳴りが響いている。だいぶ遠い海であるが隔てるものが無いのだ。こうして見ると、駅舎も随分小さく見える。これは一日目にして物凄い秘境駅に来て了った。跨線橋の上から辺りの気を感じる。只々地球であった。

 駅舎の中は広い。椅子も沢山あり十人程度座る事が出来る。田舎の駅では多い方だ。それにしても且てはそれだけ需要があったということか。
 外は若干であるが風があって肌寒い。粉雪まで降って来ている。濡れて了っては寒い。だからさっと撮影だけ済ませた。待合室の隣は元々事務所だったらしい。除雪作業の詰め所としては使っているのだろうか?海の方を向いてみたが海は見えない。暗い所為だろうか。それとも海の音は気の所為で風が唸ってるだけであろうか。

 再び駅舎に入るとほんのりと暖かみが感じられた。外の環境の影響もあるのだろう。そして木の暖かみもあるであろう。北国に於いて風雪をしのげる事はどれだけ有難いか。無人駅になって久しいのでストオヴは無いがほっと一息つけた。
 壁にはどなたが作って下さったか駅や地域の歴史に関する資料が展示されていた。この駅からは炭鉱に至る私鉄が分岐していたそうだ。そして此処から国鉄線に入り港迄石炭を運ぶ。人家や神社が沢山あったのはその私鉄に乗り換えて辿り着く炭鉱の周りのようだ。買い物や通学での乗り換えの需要が多かったらしい。そして国のエネルギー政策の転換の影響で閉山。働いていた人々は方々に散って了った。私鉄線はとっくの昔に廃止され跡形も無い。街そのものが空っ風になって了い駅だけがぽつんと佇んでいる訳だ。

 突然、音楽がかかった。夕暮れを知らせる防災無線の音である。物寂しい短調のメロディーがこの風景をよく表している。空はとくとくと暗くなり物寂しさだけが残る。それにしてもこの無線も無人地帯にも関わらず来る日も来る日もメロディーを奏でていられると感心する。子どもの帰宅を促す本来の役割は無くこうして秘境駅の雰囲気を醸し出す為だけに立っているようだ。この秘境駅にすら人が来ている保障は無い。

 列車がやって来る時間になった。駅が無いと交換できる場所も限られる。風も収まっていたし少々早めの時間に外へ出た。矢張り遅れているようだ。気長に待とう。幽かにレールの音が聞こえる。そして車内灯の暖かな光が雪原を照らし始める。ホームの上の警報機も鳴っている。鉄道マニアとしては楽しい時間の始まりだ。キハ40がエアーを吐いて息をつく一昔前のおおらかな光景がそこにはある。そして山の向こうへと去って行く結局誰も降りて来ない。
 こういう無人駅の楽しみの一つに駅ノートの閲覧がある。この駅にも連絡袋が在った。ウキウキして手に取った。落胆した。中身が無いのである。増毛線の時もそうであったがこうして廃止が近付くと駅ノートを盗みたがるマニアが生息しているようだ。さてと、一夜をどう過ごそうか。仕方が無いので補充して置いた。今頃どれだけ位賑わっているだろうか。

 次にやって来る列車は貨物列車のようだ。外に出て行かず観賞しよう。こうして待合室でゆっくり眺めるのも乙なものだ。唸る赤熊、DF200とそれに引かれたコンテナが悠々と、堂々と駆けて行く。北の大地らしい光景だ。

 列車がやって来る時間になった。割と高い確率でこの駅で交換を行う。そうせざるを得ない程の駅間なのだ。駅が無いと交換できる場所も限られる。風も収まっていたし少々早めの時間に外へ出た。矢張り遅れているようだ。気長に待とう。幽かにレールの音が聞こえる。そして車内灯の暖かな光が雪原を照らし始める。ホームの上の警報機も鳴っている。鉄道マニアとしては楽しい時間の始まりだ。キハ40がエアーを吐いて息をつく一昔前のおおらかな光景がそこにはある。そして反対列車もやって来てエンジンを唸らせ出す。束の間の賑わいだ。そして各々に山の向こうへと去って行く結局誰も降りて来ない。

 続いて普通列車もやって来た。これも発車を駅舎から見届ける。また誰も降りない廃止駅巡りのオタクも来ないかち合わなくてラッキーというべきであろうか。最高のトレインビュースポットである。

 北の大地の天候は変わりやすい。風も気まぐれに吹いては止んだりしている。今が周辺を散策するチャンスだろう。駅前の小道を少し歩くと道路に突き当たる。但しこれは往来の激しい国道ではない。国道とこの場所を繋ぐ道道である。静謐が保たれる理由はここにある。
 そして駅を出て右に歩くと程無くして建物が幾らか見られる。灯りが点っている家は無い。見事なまでに廃れた町だ。巨大な生き物の遺骨が横たわっているようだ。暗くて不気味で妖怪さんと挨拶できそうだ。深くまで行かずに引き返した。駅の灯りがほんわりと灯っていた。

 最終の普通列車同士が此処で交換する。どうせい遅れて来るだろうと重い腰を上げた頃にはもう上りのホームの警報器が鳴っていた。この便は札幌と繋がっている特急列車の影響を受けないようだ。私がホームに出るなり入線して来た。下り列車の到着迄はもう暫く待つ。交換は跨線橋の上から眺めよう。
 やがて下り列車も入線して来た。こちらも定刻で動いている。二本の列車のエンジン音が賑やかに鳴り響く。線路もしっかり埋まって堂々とした駅の風格だ。そんな時間も束の間。各々が目指す目的地へと別れて行った。この時は穏やかに向こうへ走り去って行った。

 駅ノートが紛失しているしその時は一人なのであとは呑んで寝るだけ。然し寒い。兎に角寒い。幸い駅舎が広いので風が無い処を往復できる。こうして暖まった。
 帯広のセイコーマートで購入しておいたサッポロクラッシックと豚串。このパックの総菜は持ち運びに便利だから重宝している。このしみじみとした風景にクラッシックの苦味がよく似合った。
 酔いが回って来たことである。寝袋を広げよう。もうそろそろ最終のスーパーおおぞら号が通過する時刻である。まだ特急列車は遅れているらしい。そしてそれを待たずに駅は眠って了った。自動で消灯する時刻となったのだ。早々と眠りについて了うローカルな沿線の小駅を幹線の輸送の使命を受けた特急列車が通過して行った。

 朝は割と早い時間から便がある。ここからの通学にはそれ位時間が掛かっていたのだろう。二月の日の出は未だ遅く雪国らしく群青の世界だ。片付けを済ませぼんやりと外を眺めてみた。ホームの信号機がひょうと立っているのがまた切ない。
 朝一番の上り列車はそんな中をぼんやりとした輪郭を現した。そして無言で去って行く。朝一番のスーパーおおぞら号は相変わらず忙しそうにしている。
 周りの世界は白くなっていた。曇っていたので赤い朝焼けにはならなかった。視界がはっきりとしてから改めて駅舎を見てみると、シンプルで凛々しい姿をしていた。廃墟は北海道でよく見る木造家屋が風に曝されている。ここは確かに町だったのだ。時代の流れは得体知れない怪物でもある。

 時刻表を見ての通り朝の通学列車を逃すと次は午後の便しか無いダイヤである。名残惜しいがさよならである。キハ40系がゆっくりとやって来た。今度来る時は駅舎が残っているだろうか。目にしっかり焼き付けておこう。そうしているうちに駅は小さくなり雪原の小屋として佇んでいた。

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