帰り道 十勝清水 新得 占冠 沼ノ端

厚内駅に停車するもホームには誰も居ない。交換の為の長時間停車だから発車する時に人が来るのかもしれない。交換列車がやって来て更に特急の通過も待つ。閑散っぷりにうんざりしたのか運転士さんは向こうの列車へ油でも売りに行って了った。私は寒いので車内に残った。
 特急列車が去って行っても乗客が来ない。流石に「マジかよ」と呟き一つ。普通列車はのんびりと山の中へ去って行くのだ。そして交換の普通列車は直別駅で私と入れ替わり降りて行った人達を拾うのであろう。

 と、いう訳で長い長い秘境区間、優雅なモーニングタイムの始まりである。木々は幹に枝に雪の実を蓄えてあり単調だが美しい。パンは潰れているが味は変わらない。寝袋の中で暖めた缶コーヒーと共に頂く。美味しい。
 しかし、上厚内は切なかった。一件、煙突から煙が昇っている家がある。あの家の人かな、最期に新聞か何かのインタビューに応えていた人って。そしてもうこの集落は本当に孤立して了ったと思うと不安な気持ちになる。そして駅の跡に積もった雪は切断面の包帯のように痛々しく真っ白であった。
 それから20分程で浦幌駅に着いた。ここからは乗客があった。そして十弗や新吉野でも次々に主に高校生が乗って来た。嗚呼、この為に走らせている列車なのだ。
 ここから先はうとうとしていたのでよく覚えていない。帯広迄は賑やかだった。
 帯広ではスーパーとかち号に連絡する。だから釧路から札幌に向かう時朝一のおおぞら号でなくこの便で秘境区間モーニングを楽しむのも良いかもしれない。(あ、こんな事書いたら今度読者とかちあいそうだな。)

 帯広ではコーヒーを買いに行ける程停車時間はあったが面倒だったのでパス。キハ40の快適さが身に染みる。ここ迄来れば次の列車があり時間的にそれでも良いから一旦降りるか、このまま新得迄行って了おうか。
 御影駅では設備更新工事が始まろうとしていた。これを見物しに降りようかとも思ったがそれにしては寛ぎ過ぎていた。

 結局新得の一つ手前、十勝清水駅で降りた。なかなか大きな駅なので以前から気になっていた駅でもある。スーパーとかち号は停車する駅でもある。みどりの窓口もあり待合室も広々としている。隣は文化会館になっていてフリーワイファイも使える。行政が鉄道駅の魅力作りに協力する姿勢を見せているのは心強い。「第九の町」か。今度コンサートに合わせて来てみようか。
 更にスーパーもあって買い物も便利だ。他の町も駅前の街づくりに力を入れたら良いのに。JRに文句を言って良いのはそれからだ。
 新得駅に着いたら駅そばを食べようと思っていたがついつい焼うどんも購入。それから内地では珍しい芋もちみたいなものと日量パンの商品も購入。旅の仕度は整った。
 二両編成の普通列車は定刻通り入線した。ここまでは良かった。しかし、交換列車が遅れているそうだ。新得では10分程しか時間が無いという事になりそうか。駅そばを食べられるギリギリの時間。焼うどんを買っておいて良かった。
 そのままの遅れで新得駅着。駅そば屋はと言うと休みでどの道喫食できず。行政かNPOが運営しているっぽい売店がある。そこの鳥飯が気になった。次に何時降りられるか分からない。一日限定五食だから降りれたとしてもその時に残っているか。そう考えて購入した。

 新得からの峠道はオメガカーブ。北の大地を包み込むように登って行く。素晴らしい眺めだ。そして長いトンネルに入る。窓の外が真っ暗になったタイミングで掛け紙を外すのに集中した。この鳥飯、鶏肉はジューシーで大きさもあって肉らしい。味付けもほんのり優しくほっとする味だ。
 ふと思うのだが駅弁とは何だろうか。「立売商会」に属する店が作ったものだろうか。そちらは最近では廃業になって了う店もある。モータレゼーションや過疎化とか大手のコンビニの台頭とか原因はいろいろあるらしい。その一方でこうした新しい「駅で売られる弁当」も生まれている。「駅弁」の形も時代と共に移っていいっているようだ。

 自由席の利用であったが余裕で座る事が出来た。これ位空いていれば快適だ。
「次のトマムからは沢山の方のご利用が見込まれ・・・」
 とのアナウンス。忘れていた。外国人向けのリゾートがあるこの駅の事を。見込み通り沢山の人が乗って来た。通路に迄溢れる程ではないので悪くはないが車内は一変した。ここは日本か。

 さて、私はその次の占冠駅で降りる。序に夕張方面へ寄って行こうと思ったら接続が悪い。一本見送っても問題無い。そこで駅巡りをしようとという訳だ。この辺りの駅もなかなか行ける機会は無いので丁度良い。

 人口がとても少ない村だが駅は立派だ。何と言っても特急しか停まらない。ホームは勿論長く作ってあるが降りたのは私一人だけであった。駅のすぐ近くに立派なスノーシェルターがどんと構えている。国鉄が貫通させたその意地を感じる。駅舎に入ったら暖かかった。強力なストーブのお陰で暑いくらいだ。待合室は広く観光客が多く押し寄せても大丈夫だ。この辺りの観光シーズンは夏なのだろうか。スキー場は無かっただろうか。

 村の中心部迄は2,3キロある。札幌と道東を直線で結ぶ為の路線。あまり沿線は考慮されていない。足をつった感じがあるし一時間少々で往復できそうに無いので断念。そして駅は極楽だ。暖かい。そうは言っても折角来たのに閉じ籠っているのも味気ない。外に出てみよう。駅の外観は小振りな新幹線駅みたいだ。まあ建設された時代と目的が似ているのだからそうなるだろう。事務所の隣りは保線区がある。周りは見事な迄に雪山だ。スキー場とは違い木もびっしり生えている。
 駅前にレストハウスが有ったので入ってみた。中は閑散としている。レストランも営業しているのだろうか。そして広々としたロビーに革のソファー、省エネという発想が無さそうな程効かせてある暖房から昭和を感じた。昼寝に良いぞこれは。その一方でフリーワイファイがあるのは平成らしいな。
 親子の熊の剥製が飾ってある。この辺りで仕留められたものらしい。北海道での野宿というのはこういうのに遭遇する事もあるという事なのだと再認識。恐ろしい話だ。大きさはそんなに無いけど力は強いのだろう。

 少々うとうと出来た事だし一寸歩いてみよう。外へ出ても駅前には山の向こうまで延びる道路と村営住宅が一棟。それから営業しているか分からない店が数件あるだけ。森林浴ならぬ雪山浴という感じだ。山の気を充分に吸い込んで反対列車の通過を見届けて駅に戻った。

 列車の時刻迄少々余裕がある。駅スタンプを押させて貰えた。私のノートに昨年引退したキハ183系の初期車がどおんと現れた。懐かしい。そして今でも名車として語り継がれる車両なのだな。

 列車の時刻になった。私の他にもう一人客がいた。自由席車両は先頭車。駅舎からだいぶ距離がある。歩いているうちに列車が着いたので取り敢えず乗車。村を離れ再び山の中に入って行った。今日はさようなら占冠。自由席車両にでも行くとするか。

 ここもまたゴツい駅だ。新夕張駅も山間に作られた駅である。ホームからは立派なトンネルも見える。大動脈のど真ん中に居るのだ。ホームから待合室へ至る通路は近江塩津駅みたいなコンクリートの無骨さを感じる。
 この駅は廃止される支線の分岐駅だ。夕張への玄関口らしく待合室も大きく窓口もある。駅前には道の駅も見える。
 駅前のバスターミナルは噂通り広く整備されている。そしてその一角には「紅葉山」と書かれた駅名版が遺されている。夕張線の一駅から幹線の主要駅、それから支線廃止後のバスターミナル。交通の移り変わりが見て取れる。

 夕張支線のどの駅で降りようか。単純な往復ならば以前もやった事がある。どの駅か適当に降りてみよう。一番近いので運賃も安く折り返すまでの時間が長い沼ノ沢駅にした。
 単行のキハ40はこのホームには小さ過ぎる。長い特急列車や貨物列車が行き交う中でさぞ心細いであろう。新夕張駅からは地元の方々が5、6人乗車。紅葉山駅は健在だ。これで廃線になるのだからあの留萌線の増毛迄が最近まで残っていた事に驚く。それ位まだ町なのだ。
 ボックス席には千歳方面からの鉄道オタク達が一人一区画占領していた。地元の方々はロングシートに腰を掛けた。誤解のないように言っておくと鉄道オタク達のマナーは悪い訳でなく後から乗って来た者は居心地が良いだけなのだろう。
 ひょろりと伸びた単線の線路をガタンゴトンと進んで行く。直ぐに木々が迫り谷の中へと入って行くのを感じた。そして程無くして沼ノ沢駅に着いた。コンクリートのホームに普通のローカル線の大きさの駅舎だ。中に入ると人は居ないがローカル線の暖かな空気が流れていた。手入れが行き届いており色とりどりの座布団まである。広過ぎないので空洞が無い。

 駅舎の外観は喫茶店風。田舎の駅によくありそうな店舗併設型の駅。なかなか立派で廃線前とは思えない。

 折り返し列車までの滞在という制約があるので駅の観察も程々に周囲の散策をしてみる。平屋建ての長屋が連なっている。明らかに「日本の田舎」とは異なる。最盛期は東京のアパートみたい、否それ以上に生活感があったのではないだろうか。

 そこを抜けたら風景が一変する。広大な大地にポツンと一軒。農地だなあ。という事はこの辺りの産業は農業なのだろうか。ではあの長屋は一体何であろう。
 空が夕張メロン色に染まっている。甘そうなオレンジ色だ。道の先はまだまだ続きそうだ。丁度滞在時間の半分が経過。雪が無くなれば遠くに行けるのかなと思い今回は引き返した。振り返れば一面暖色だ。そして遠くに飛行機雲も見える。数秒浸れるだけで幸せ。さあ列車に間に合わせなければ。

 帰りは一寸ルートを変えてみた。長屋が整然と並んでいるだけであろうから迷う事は無いであろう。田舎でよく見る移動スーパーが停まっている。最早住んでいる人の数も田舎と同じくらいなのだろうか。火の見櫓がひょうと立っているのは哀愁を感じる。

 少々駆け足になって了ったが発車五分くらい前に駅に到着。地元の方の利用もあるようだ。駅ノートに記帳してからホームへ。また訪れたい駅である。駅を暫く見つめていたがまたすぐに木々の迫る谷間に沈んで行って了った。ゆっくりと客室内に入ると如何にもそのまま折り返してきたなという感じだ。私はぼさっとロングシートに腰を降ろした。

 その後はボックス席が空いたのでそちらに移って随分深く眠っていたように思える。気が付けば千歳線の構造物が見え合流。南千歳駅に着いた。空港行きの快速エアポートがすぐ向かいに停まりよくできた接続だなと感心する。

 飛行機迄時間があるので一服。「まちむら」といえば北斗星号やカシオペア号での車内販売のアイスでお馴染みだ。懐かしくなってついつい購入。これはあっさりしていて冷たくて美味しかった。
 これにより今年の廃止駅駅寝旅も無事終了。

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